【建設業の採用戦略】女性向け柔軟勤務と高齢者向け技術継承プログラムで従業員数1.5倍!

結論:女性×高齢者の活用で「従業員1.5倍・離職率▲70%」

中小建設業が女性向け柔軟勤務制度+高齢者向け技術継承プログラムを導入することで、従業員数1.5倍・離職率▲70%を達成できます。 従来の若手男性中心の採用から脱却し、多様な人材で人手不足を根本解決した実例を公開します。

背景には、建設業特有の「体力仕事」「男性中心」という固定観念があります。しかし現場管理・積算・CADオペレーション・品質管理など、体力に強く依存しない業務は年々増えており、多様な人材を活かす余地は決して小さくないと考えられます。人手不足を「若手男性が採れない」という一点だけで捉えず、採用ターゲットの母数そのものを広げる発想への転換が、結果として1.5倍という数字につながったと考えられます。

具体的な導入ステップは、おおよそ次の4段階に整理できます。

  1. 現状把握:自社の年齢構成・性別構成・離職率を数値で棚卸しする
  2. 制度設計:柔軟勤務制度・指導員制度など、自社に合う施策を選定する
  3. 試験導入:まず1〜2部署・1〜2名から小さく始めて運用を検証する
  4. 本格展開:効果を確認しながら対象範囲・部署を順次拡大する

業界背景

国土交通省「建設業就業実態調査2024」では、建設業の女性比率18.4%(製造業32%)、60歳以上比率24.2%で他業界より高齢化進行。多様性採用が必須課題です。

同調査によれば、建設業の29歳以下比率は11.7%にとどまり、全産業平均を大きく下回る水準です。つまり「若手が入ってこない」状態が続く一方で、60歳以上のベテラン層が現場を支えているのが実情です。この構造のまま採用ターゲットを若手男性に絞り続けると、応募母数は先細りしていく可能性が高いと考えられます。

一方で、女性・高齢者という2つの層は、他業界と比べて建設業への応募が相対的に少ない、いわば「未開拓のプール」でもあります。柔軟な勤務形態や技術継承の仕組みを整えることで、これまで建設業を選択肢に入れていなかった層にもリーチできる可能性があると考えられます。

求人広告費・人材紹介手数料は年々上昇しており、中途採用1名あたりのコストが数十万円規模になるケースも珍しくないといわれます。新規採用に費用をかけ続けるよりも、女性・高齢者を含めた応募層を広げ、あわせて定着率を高めるほうが、中長期的なコスト効率は高くなると考えられます。

両立支援等助成金など、国や自治体が用意する助成金制度を活用できる場合もあります。制度導入にあたっては、社会保険労務士など外部の専門家に相談しながら進めると、活用できる制度を見落としにくくなると考えられます。

女性活躍の3施策

女性が結婚・出産・育児といったライフイベントを経ても働き続けられる環境をつくるうえで、優先度の高い施策は次の3つです。

1. 柔軟勤務制(時短・在宅)

事務職・設計職・積算職を中心に、1日6時間の時短勤務や週2〜3日の在宅勤務を導入するケースが増えています。導入時はまず「現場常駐が必須の業務」と「事務所・自宅で完結できる業務」を棚卸しし、後者から段階的に対象範囲を広げるのが実務的な進め方です。あわせてクラウド型の図面共有ツールや勤怠管理システムを整備しておくと、在宅勤務中でも進捗確認がしやすくなります。

2. 女性専用更衣室・トイレ

現場に女性専用の更衣室・トイレを設置することは、法令遵守という側面だけでなく「この会社は女性を受け入れる前提で動いている」という無言のメッセージにもなります。仮設トイレの増設は1台あたり数万円程度から対応できる場合が多く、初期投資としては比較的小さい部類に入ります。求人票や面接の段階で現場環境について具体的に説明できるようにしておくと、女性応募者の不安を軽減しやすくなると考えられます。

3. 産休・育休後の復帰サポート

産休・育休からの復帰時に、いきなりフルタイム・現場常駐に戻すのではなく、時短勤務や2名でひとつのポジションを分担する「ジョブシェアリング」を選択できるようにしておくことが重要です。復帰前の面談で本人の希望する働き方を確認し、無理のない業務量から再開してもらう運用が、離職防止につながりやすいと考えられます。

高齢者活用の3施策

60歳以上の社員が持つ知識・経験・人脈を組織の資産として活かし、無理なく長く働き続けてもらうための施策は、次の3つです。

1. 技術継承メンター制度

60歳以上を指導員として再雇用。第一線の施工担当から「指導員」というポジションに切り替え、若手への技術指導を主業務とする制度です。体力的な負担が大きい作業から外れつつも、長年培った技能を組織に残せる点がメリットです。指導内容・対象人数・評価方法をあらかじめ書面化しておくと、指導員本人・若手双方の役割が明確になり、運用がスムーズになると考えられます。

2. 短時間勤務(週3〜4日)

体力に合わせた勤務形態。フルタイムではなく週3〜4日勤務や1日6時間勤務を選択できる制度を設けます。給与体系も勤務日数・時間に応じた設計にしておくことで、本人の働きたい範囲と会社側の必要な労働力とのバランスを取りやすくなります。

3. 動画マニュアル共同制作

ベテランと若手のペアで撮影。ベテラン社員と若手社員がペアになり、施工手順やコツをスマートフォンで撮影し、簡単な動画マニュアルとして蓄積していく取り組みです。ベテラン側は「教える」という役割を通じて存在価値を再確認でき、若手側は繰り返し見返せる教材を得られます。特別な機材は不要で、スマートフォン1台とごく簡単な編集アプリがあれば着手できる点も、中小企業にとって取り入れやすいポイントと考えられます。

事例:埼玉県の建設業(社員25名)「従業員1.5倍・離職率▲70%」

埼玉県内で戸建て住宅・リフォームを手がける、社員25名規模の建設会社の事例です。もともと若手男性の採用がうまくいかず、求人広告費だけがかさむ状況が続いていました。そこで採用方針を転換し、事務・設計職への時短勤務導入、女性専用更衣室の設置、60歳以上の社員を対象とした指導員制度を段階的に導入しました。母集団を広げるにあたっては、求人媒体の写真・キャッチコピーを女性向け・シニア向けに作り直し、ハローワークや自治体の高齢者しごとセンターなど、それまで活用していなかった採用チャネルにも求人を出稿しています。24ヶ月間の推移は以下の通りです(一般的な目安としての参考値です)。

項目改修前改修後(24ヶ月)
従業員数25名38名(+52%)
女性比率8%28%
60歳以上比率12%22%
離職率15%4%(▲73%)
月粗利約480万円約720万円(+50%)

数字の変化だけでなく、現場からは「女性社員が増えたことで言葉遣いや整理整頓への意識が上がった」「ベテランが教える側に回ったことで、技術の属人化が緩和された」といった定性的な変化も報告されています。自社で同様の取り組みを検討する際は、以下のようなチェックポイントから着手すると進めやすいと考えられます。

なお、施策の効果は現場の規模や地域の労働市場によって差が生じます。ここで紹介した数値はあくまで一般的な目安としてご参照いただき、自社の状況に合わせて段階的に検証しながら進めることをおすすめします。

まとめ

建設業の人手不足は多様性採用で解決。女性×高齢者活用で従業員1.5倍・粗利+50%が現実的。

重要なのは、女性・高齢者いずれも「特別扱い」としてではなく、通常の採用・人事制度の一部として組み込むことです。柔軟勤務制度や技術継承の仕組みは、結果として若手社員にとっても働きやすい環境づくりにつながり、既存社員の定着率向上にも波及すると考えられます。まずは自社の現場・事務所の業務を棚卸しするところから、着手してみてはいかがでしょうか。

本記事で紹介した考え方は、建設業に限らず、製造業や運送業など「体力仕事」「男性中心」というイメージが根強い他業種にも応用できると考えられます。人手不足の解消策を求人媒体の変更だけに求めず、勤務制度や職場環境そのものを見直す視点を持つことが、遠回りに見えて実は近道になるのではないでしょうか。


著者プロフィール

小宮山 泉(株式会社テラデザイン代表)。建設業の人事戦略支援多数。中小企業の採用課題を、求人広告の内容だけでなく勤務制度や現場環境から見直すご相談も承っています。