従業員の「働きやすさ」をITで改善!建設業界における定着率向上のための組織改革
結論:IT3点セットで「離職率24%→6%」が現実
建設業がIT導入で従業員の働きやすさを改善することで、離職率24%→6%・採用応募3倍が実現できます。 給与クラウド・スマホワークフロー・動画教育の3点で大きな効果が出ます。
建設業界は有効求人倍率が全産業平均を大きく上回る状態が続いており、人材の採用そのものが難しくなっています。加えて技能労働者の高齢化も進んでおり、若手をいかに採用し、いかに定着させるかが経営の最重要課題になっていると考えられます。せっかく採用した若手社員が1〜2年で離職してしまうと、採用コストと教育コストの両方が無駄になるだけでなく、現場のベテラン社員の負担も増える悪循環に陥りがちです。
離職の理由として多いのが「給与や評価の仕組みが分かりにくい」「紙の申請・報告作業が面倒」「教育がベテランの経験と勘に頼っていて習得に時間がかかる」の3点です。これらはいずれも属人的な仕組みが原因であり、精神論や声かけだけで解決するのは難しい領域といえます。一方で、この3点はITツールの導入によって仕組みごと解消できる余地が大きい部分でもあります。ここからは、実際に効果が出やすい3つのIT施策を順番に見ていきます。
IT3点セット
以下の3施策は、いずれも数十万円規模の初期投資と月数千円〜数万円程度のランニングコストで導入できるクラウドサービスが中心です。大掛かりなシステム開発をせずとも、既存のクラウドサービスを組み合わせるだけで着手できる点が、中小の建設業にとって取り入れやすいポイントと考えられます。導入の順番としては、まず社員の生活に直結する「給与」から着手し、次に日々の業務負担が大きい「申請・報告」、最後に中長期の育成に関わる「教育」へと広げていく進め方が現実的です。
1. 給与クラウド(SmartHR等)
- 給与明細スマホ確認
- 年末調整電子化
- 有給残日数・勤怠履歴の可視化
- スマホ打刻による勤怠管理
給与明細を紙で配布している会社では、明細を紛失してしまったり、有給残日数がいつの間にか分からなくなっていたりする従業員が少なくありません。給与クラウドを導入してスマホでいつでも確認できるようにするだけで、「自分の待遇が正しく管理されている」という安心感につながり、これが会社への信頼の土台になると考えられます。導入期間の目安としては、就業規則や給与体系の整理を含めても1〜2ヶ月程度で運用開始できるケースが多い印象です。
2. スマホワークフロー(kintone等)
- 直行直帰可能
- 残業申請即時
- 現場写真・日報のその場提出
- 承認フローの進捗が見える化
建設現場では、事務所に戻ってから紙の日報を書き、上長のハンコをもらいに歩き回るという運用が今も少なくありません。この「戻る・書く・待つ」という一連の作業は、現場作業員にとって地味ながら大きな負担になっています。スマホワークフローを導入すれば、現場から直帰しながらその場で日報や写真を提出でき、残業申請や経費精算も数タップで完了します。承認する側も外出先やスマホから承認できるため、申請から承認までのリードタイムが数日から数時間に短縮されるケースも一般的な目安として珍しくありません。
3. 動画教育
- いつでも復習可能
- 育成期間短縮
- ベテランの技術・段取りの言語化・映像化
- 外国人材向けの多言語字幕対応
建設業の技能教育は、これまでOJT(先輩社員が現場で直接教える形式)に依存してきた部分が大きく、教える側の負担が偏りやすいという課題がありました。安全確認の手順や工具の使い方、段取りの組み方などをあらかじめ動画にまとめておけば、新人は現場に出る前に繰り返し予習・復習ができ、教える側の負担も分散されます。結果として、独り立ちまでの育成期間が短縮され、早期離職につながりやすい「分からないまま放置される不安」を軽減できると考えられます。
事例:栃木県の建設業(社員25名)「離職率24→6%」
この会社では、給与明細が紙配布のみで有給残日数の管理も台帳頼み、日報は事務所に戻ってから手書き、新人教育はベテラン社員のOJT任せという状態が続いていました。若手社員からは「いつまで経っても仕事を覚えられている実感がない」「給与や評価がブラックボックスに感じる」といった声が上がっており、入社2年以内の離職率は24%まで達していました。経営者としても手は打ちたいものの、何から着手すればよいか判断がつかない状態だったと聞いています。
そこで前述のIT3点セットを、給与クラウド→スマホワークフロー→動画教育の順に約半年かけて段階的に導入しました。一度に全てを変えるのではなく、まず従業員が日常的に触れる給与まわりの不安を解消し、次に日々の業務負担が大きい申請・報告作業を簡素化し、最後に育成の仕組みを整えるという流れです。結果は次の表のとおりで、18ヶ月後には離職率が24%から6%へと大きく改善し、採用応募数・従業員満足度・月粗利のいずれも向上しました。
| 項目 | 改修前 | 改修後(18ヶ月) |
|---|---|---|
| 離職率 | 24% | 6% |
| 採用応募 | 月3件 | 月9件 |
| 従業員満足度 | 3.2 | 4.4(5点満点) |
| 月粗利 | 約340万円 | 約460万円(+35%) |
特に注目したいのは、離職率の改善だけでなく月粗利が約35%向上している点です。離職率が下がれば採用・教育コストが減るだけでなく、経験を積んだ社員が現場に長く残ることで施工品質やスピードも安定します。従業員の働きやすさへの投資は、単なる福利厚生ではなく粗利に直結する経営投資と捉えることができると考えられます。また従業員満足度が3.2から4.4(5点満点)へ改善したことで、既存社員からの紹介による採用(リファラル採用)も増え、採用応募数の増加につながったとのことです。
導入にあたっては、次のような順序で進めると混乱が少なく済みます。まず経営者・現場責任者を含めた全員で「離職の本当の原因はどこにあるか」を洗い出し、次に前述の3施策のうち最も効果が見込める1つから着手し、最後に3〜6ヶ月ごとに離職率・採用応募数・従業員満足度などの数字で効果を振り返るというサイクルです。
- ステップ1:給与・勤怠まわりの不透明さを解消する(給与クラウド導入)
- ステップ2:紙の申請・報告業務をスマホで完結させる(ワークフロー導入)
- ステップ3:ベテランの技術・段取りを動画で形式知化する(動画教育導入)
- ステップ4:離職率・応募数・満足度を定期的に数字で振り返る
費用面については、給与クラウド・スマホワークフローはいずれも1ユーザーあたり月数百円〜千円台のサービスが多く、社員25名規模であれば月数万円程度から始められる場合が一般的な目安です。動画教育については、既存のスマホやタブレットで撮影・編集する運用であれば、大きな追加投資をせずに始められるケースも少なくありません。いきなり全社導入するのではなく、まずは1つの現場・1つの部署で試験的に運用し、現場の反応を見ながら全社に広げていく進め方が、失敗のリスクを抑えるうえでも有効と考えられます。
導入前に確認しておきたい5つのチェックポイント
IT導入をスムーズに進めるためには、着手前に社内の状況をある程度整理しておくことが重要です。以下の5点は、導入前に一度確認しておくとつまずきが少なくなるポイントとして挙げられます。
- 現在の給与計算・勤怠管理にかかっている工数を洗い出せているか
- 現場担当者がスマートフォンやタブレットの基本操作に慣れているか
- 紙の申請・報告フローのうち、どこが最大のボトルネックになっているかを特定できているか
- ベテラン社員から教育ノウハウ(手順・コツ・注意点)をヒアリングする時間を確保できているか
- 導入後の効果測定に使う指標(離職率・応募数・満足度など)をあらかじめ決めているか
特に見落とされがちなのが、現場担当者のITリテラシーへの配慮です。普段からスマートフォンを使い慣れている若手社員と、紙の運用に慣れたベテラン社員とでは、新しいツールへの抵抗感に差が出やすい傾向があります。導入初期は操作研修やマニュアル整備に時間を割き、「わからないことがあればすぐ聞ける」体制を用意しておくことで、社内への定着スピードが変わってくると考えられます。また、システムやツールの選定段階で複数のベテラン社員・若手社員の両方から意見を聞いておくと、現場の実態に即した運用ルールを作りやすくなります。逆に、経営層や本社スタッフだけで仕様を決めてしまうと、現場で使われないまま形骸化してしまうケースも見受けられますので、注意が必要です。
まとめ
建設業のIT3点セットで離職率1/4・粗利+35%が現実的です。給与クラウド・スマホワークフロー・動画教育は、いずれも大掛かりなシステム開発を伴わずに導入できるクラウドサービスが中心であり、中小の建設業でも半年程度で段階的に取り入れられる規模感といえます。
従業員の定着率向上は、一朝一夕に実現するものではありませんが、「給与が見える」「申請がラク」「教育の道筋がある」という3つの安心感を仕組みとして整えることが、結果として離職率の低下と収益性の向上の両方につながっていくのではないかと考えられます。まずは自社で最も従業員の不満が大きい領域はどこかを洗い出すところから、着手されてみてはいかがでしょうか。
どの施策から着手すべきか判断がつかない場合や、自社の現状に合わせた導入順序・費用感を相談したい場合は、下記の窓口からお気軽にお問い合わせください。
著者プロフィール
小宮山 泉(株式会社テラデザイン代表)。建設業の組織改革支援多数。給与クラウド・スマホワークフロー・動画教育の導入設計から、現場に定着するまでの伴走支援まで一貫して担当しています。中小規模の建設会社ほど「何から着手すべきか」で迷いやすいと感じており、優先順位の整理から一緒に考えるスタンスで支援にあたっています。
