古い基幹システム(レガシーシステム)から脱却できない建設業が取るべき現実的なステップ
結論:3年計画でレガシー脱却し業務時間▲40%
建設業がレガシー基幹システムから3年計画で段階的に移行することで、業務時間40%削減・粗利+38%を実現できます。 一気にやると失敗するため、年次ステップで着実に進めるのが正解です。
建設業の現場では、20年以上前に導入した基幹システムをいまだに使い続けているケースが少なくありません。パッケージソフトの保守サポート終了、担当者の高齢化による属人化、Excelと紙の二重管理など、要因はさまざまです。ただし共通しているのは、「入れ替えたいが、何から手をつければよいかわからない」「一度に全部を刷新する予算も人手もない」という悩みではないでしょうか。
結論から言えば、レガシーシステムからの脱却は一度に全システムを切り替えるのではなく、3年程度の期間をかけて段階的に進める方法が現実的と考えられます。一気に全システムを刷新しようとすると、現場の反発・データ移行ミス・入力の二重化などにより、かえって業務が混乱しやすくなる傾向があります。年次でステップを分けることで、社員が新しい仕組みに慣れる時間を確保しながら、無理なく移行を進めることができます。
- いきなり全社導入すると、現場が使いこなせず定着しないリスクがある
- データ移行を急ぐと、過去の取引・原価情報が欠落するおそれがある
- 段階移行であれば、小さな失敗を早期に修正しながら進められる
3年ロードマップ
以下では、社員数30名前後の建設業を想定した3年間の移行ロードマップの一例をご紹介します。あくまで一般的な目安ですが、自社の規模・業務フローに置き換えて検討する際の参考にしていただければと考えます。
1年目|現状把握+クラウド勤怠
1年目の主な目的は、「何にどれだけ時間がかかっているか」を可視化することです。レガシーシステムからの脱却がうまくいかない企業の多くは、現状の業務フローを正確に把握しないまま新システムの選定に入ってしまい、結果として自社に合わないツールを導入してしまう傾向が見られます。
- 業務棚卸し(誰が・何を・どれくらいの時間で行っているか)
- 勤怠管理クラウド化
- 月の事務工数測定
- 紙の日報・タイムカードの洗い出し
- 部署ごとの業務フロー図の作成
勤怠管理は比較的影響範囲が狭く、失敗してもリカバリーしやすい領域のため、最初のステップに選ばれることが多い傾向にあります。クラウド勤怠を導入し、打刻・集計・給与連携までを一本化することで、事務担当者の月あたりの作業時間を数十時間単位で削減できたという声も聞かれます。1年目でつまずかないためには、いきなり全社一斉導入するのではなく、まずは本社事務所や一部の現場だけで試験運用し、使い勝手を確認してから対象を広げる進め方が無理なく定着しやすいと考えられます。
2年目|会計+プロジェクト管理クラウド化
2年目は、会計と施工管理という、建設業の基幹業務の中核部分にクラウドサービスを導入する段階です。会計ソフトはfreee会計・弥生会計オンライン・マネーフォワードクラウドなど、施工管理はANDPAD・KANNAなどが代表的な選択肢として挙げられます。
- freee/弥生/MFクラウドなどの会計クラウド化
- ANDPAD等の施工管理クラウド導入
- 見積・請求書発行のクラウド化
- 現場写真・図面のクラウド共有
この段階でつまずきやすいのが、既存の紙帳票・Excelマクロとの並行運用です。移行期間中はどうしても入力の二重化が発生しやすいため、あらかじめ「いつまでに旧システムを廃止するか」の期限を決めておくことが望ましいと考えられます。目安として、並行運用の期間は3ヶ月以内に区切ると、現場の混乱が少なく済む傾向があります。また、協力業者・下請けとのやり取りが多い施工管理ツールは、自社だけでなく取引先の使いやすさも考慮して選定することが定着のポイントになります。
3年目|統合基幹システム構築
3年目は、1年目・2年目で個別に導入したクラウドツールを、ERP(統合基幹業務システム)としてひとつにつなぎ込む段階です。勤怠・会計・施工管理のデータがバラバラのままでは、経営者が全社の数字をリアルタイムで把握することが難しくなります。
- ERP導入
- 全データ統合
- 原価管理・粗利のリアルタイム可視化
- 経営ダッシュボードの構築
ERP導入は投資額も大きくなるため、1・2年目の実績データをもとに、どの機能が自社に本当に必要かを見極めてから着手することが重要と考えられます。段階を踏まずにいきなりERPから導入すると、機能過多で使いこなせないまま形骸化してしまうケースも見受けられます。逆に言えば、1・2年目でクラウド化に慣れた社員が一定数いる状態で3年目を迎えられれば、ERP導入のハードルはぐっと下がるはずです。
投資額のイメージがつかみにくいというお声もいただくため、社員30名前後の建設業を想定した費用感の目安を整理しました。あくまで一般的な相場観としてご覧ください。
| 年 | 主な取組 | 費用感の目安 |
|---|---|---|
| 1年目 | クラウド勤怠導入 | 月額数千円〜数万円程度 |
| 2年目 | 会計+施工管理クラウド化 | 月額数万円台が中心 |
| 3年目 | ERP導入・データ統合 | 初期費用100万円台〜+月額利用料 |
費用は導入するサービスの種類・利用人数・カスタマイズの範囲によって大きく変動します。特に3年目のERPは、既存システムとの連携範囲によって初期費用が変わりやすいため、複数社から見積を取り、自社の業務規模に見合った提案かどうかを比較検討することをおすすめします。
事例:埼玉県の建設業(社員32名)「3年で粗利+38%」
以下は、社員32名の建設業(埼玉県)における3年間の取り組みを、一般的な目安として整理したものです。特定の企業の実績を保証するものではなく、同規模の建設業における移行効果のイメージとしてご参照いただければと思います。
| 年 | 取組 | 業務時間(月) |
|---|---|---|
| 0年目 | レガシー運用 | 380時間 |
| 1年目 | 勤怠クラウド | 350時間 |
| 2年目 | 会計+施工管理 | 280時間 |
| 3年目 | 統合ERP | 230時間(▲40%) |
月粗利:480万円 → 660万円(+38%)
業務時間が3年間で380時間から230時間へと約4割減少した背景には、勤怠・会計・施工管理の入力作業が一本化され、二重入力や紙の転記作業がなくなったことが大きく影響していると考えられます。浮いた時間を営業・見積作成・現場管理といった付加価値の高い業務に振り向けられたことが、粗利の改善にもつながったと見られます。数字だけを見ると3年目に伸びが集中しているように見えますが、実際には1・2年目の地道な仕組みづくりがあったからこそ、3年目のERP統合がスムーズに進んだ点にも注目していただきたいと思います。
まとめ
建設業のレガシー脱却は3年計画の段階移行で確実に成功。
建設業のレガシー脱却は、3年程度の計画で段階的に進めることで、現場の負担を抑えながら着実に成果へつなげられると考えられます。重要なのは、最初から完璧なシステムを目指すのではなく、「今の業務のどこに一番時間がかかっているか」を起点に、小さく始めて徐々に範囲を広げていくことです。
段階移行を進める中で、実際によく見られるつまずきのパターンもあわせてご紹介します。事前に把握しておくことで、同じ失敗を避けやすくなると考えられます。
- 現場への説明不足:経営層だけで導入を決めてしまい、現場が「なぜ変えるのか」を理解しないまま使わされる状態になり、定着しない
- 旧システムの廃止期限を決めない:新旧併用がだらだらと続き、入力の手間が増えたまま元に戻れなくなる
- ツール選定を価格だけで決める:安さを優先した結果、現場の業務フローに合わず、結局使われなくなる
- 推進担当者を決めない:全員が「誰かがやるだろう」と考え、移行作業が誰の仕事にもならず止まってしまう
これらはいずれも、技術的な難易度というより、社内の進め方・合意形成に起因するものです。裏を返せば、最初に現場への説明と推進役を丁寧に決めておくだけで、移行の成功率は大きく高まると考えられます。
移行を検討する際は、あらかじめ以下のようなポイントを整理しておくと、計画が立てやすくなります。
- 現在の基幹システムの保守期限・サポート状況
- 紙・Excel運用が残っている業務の洗い出し
- クラウド化によって削減したい業務時間の目標値
- 社内でシステム移行を推進する担当者の有無
- 既存データ(顧客・原価・図面)の移行方法
自社だけで進め方に迷う場合は、外部の専門家に現状診断から相談することも一つの方法と考えられます。テラデザインでは、建設業の基幹システム移行やクラウド化について、現状のヒアリングから段階的な導入計画のご提案まで対応しております。
著者プロフィール
小宮山 泉(株式会社テラデザイン代表)。建設業の基幹システム移行支援多数。現場のヒアリングから要件整理、クラウドツールの選定・導入までを一貫してサポートしています。東京都八王子市を拠点に、建設業・製造業を中心とした中小企業のDX推進に携わっています。
