心理的ハードルを1/10に|お客様が「これなら聞ける」と思える導線設計の作り方

なぜ「いきなり契約」を求めると逃げられるのか

契約を申し込む」ボタンが押されないのは、当たり前です。お客様にとってその行動は「最終決断」だから。

その手前に、少しずつ気軽な行動を用意するのが導線設計です。

たとえるなら、初対面の相手にいきなり「結婚してください」と言わないのと同じです。まず挨拶をして、少し話をして、連絡先を交換して、食事に誘って──という段階を踏むからこそ、相手も安心して次の一歩を踏み出せます。営業やWebサイトでも考え方はまったく同じです。「いきなり契約」を求めるページは、初対面でプロポーズしているようなものと考えられます。

心理的ハードルとは、行動を起こすときに感じる「面倒くささ」「不安」「損をするかもしれないという警戒心」の総量です。個人情報を入力する、電話番号を教える、時間を拘束される──こうした要素が一つ増えるごとに、ハードルは跳ね上がります。反対に、匿名で・無料で・数十秒で完了する行動であれば、ハードルはほぼゼロに近づきます。まず入り口のハードルを極限まで下げ、信頼が積み上がった段階で少しずつハードルを上げていく。これが「これなら聞ける」と思ってもらえる導線設計の基本の考え方です。

5段階の心理的ハードル設計

具体的には、お客様の行動を「匿名でできる行動」から「正式な契約」までの5段階に分けて設計します。それぞれの段階でお客様に求める負担(個人情報・時間・お金)を一段階ずつだけ増やすのがポイントです。段階を飛ばして負担を一気に増やすと、そこでお客様が離脱してしまうと考えられます。

第1段階:匿名でできる行動(ハードル1)

この段階でお客様に求めるのは、クリックする・数分見るだけです。名前もメールアドレスも聞きません。ここで大事なのは「試しに見てみる」ことへの抵抗感をゼロに近づけることです。診断コンテンツを作る場合も、質問数は5〜7問程度、回答時間30秒〜1分を目安にすると、最後まで進んでもらいやすくなると考えられます。この段階の役割は成約を取ることではなく、次の段階に進んでもよいと思ってもらう「入り口」を用意することです。

第2段階:軽い情報提供(ハードル2)

ここで初めて、お客様に「連絡先を教えてもよい」と思ってもらう段階に入ります。ただし、氏名・住所・電話番号までまとめて求めると、まだハードルが高すぎます。ニックネームだけで登録できるLINE、メールアドレス一つで完了するメルマガなど、「教えても損しない情報」だけに絞るのがコツと考えられます。この段階から先は、お客様に直接情報を届けられる関係が始まるため、次の段階(詳しい情報提供)への橋渡し役として重要な位置づけになります。

第3段階:詳しい情報(ハードル3)

第3段階になると、お客様は自社の課題や悩みにある程度自覚を持ち始めている状態と考えられます。資料DLフォームの項目は「氏名・メールアドレス・簡単な質問1つ」程度に絞り、氏名や会社名以外の細かい属性情報(従業員数・年商・部署名など)は求めすぎないことが大切です。項目を1つ増やすごとに離脱率が数パーセント上がるとされており、フォームの項目数はできる限り最小限にとどめるのが実務上の目安になります。

第4段階:会話(ハードル4)

ここまで段階を踏んだお客様は、すでにある程度の信頼関係ができている状態です。だからこそ「会話」というハードルの高い行動にも応じてもらいやすくなります。ポイントは、いきなり営業電話にしないことです。「まずは状況をお伺いするだけの30分」「売り込みは一切しません」といった安心できる言葉を添えることで、会話へのハードルをさらに下げられると考えられます。無料相談の時間は30分程度に区切り、その場で契約を迫らない設計にすることが、次の段階へ自然につながるコツです。

第5段階:契約(ハードル5)

各段階をピラミッド構造で設計し、第1段階を100倍簡単にすることで、最終的な契約数が増えます。

ピラミッドの一番下(第1段階)の母数が大きいほど、最終的に契約まで到達する人数も増えていきます。逆に言えば、いきなり第4段階・第5段階のCTA(行動喚起ボタン)だけをホームページに置いてしまうと、ピラミッドの土台がないままいきなり頂上を目指すことになり、大半のお客様が離脱してしまうと考えられます。まずは土台となる第1段階の入り口を用意し、そこから少しずつ上の段階へ橋渡しする設計にすることが、導線設計全体の成功率を左右する要と言えます。

千葉県のサービス業の実例

実際にこの5段階設計を導入した、千葉県のとあるサービス業のケースを一般化した例としてご紹介します。改修前は、ホームページに置かれたCTAが「お問い合わせはこちら(正式契約前提の相談)」の1種類だけでした。ハードルの高いCTAしか用意されていなかったため、月間3,000〜4,000人ほどの訪問者がいても、実際に問い合わせに至るのはごく一部にとどまっていたとのことです。そこで、匿名診断・LINE登録・資料DL・無料相談・契約という5段階のCTAを段階的に配置し直しました。導入後のある月の各段階の推移は、次のような目安になっています。

段階月推移
第1:ブログ訪問月3,800人
第2:LINE登録月62人(CV率1.6%)
第3:資料DL月18人
第4:相談予約月8件
第5:成約月3件

いきなり契約申込」CTAだけだった改修前は月成約0.6件。5段階設計で5倍に。

この数字を見ると、各段階のCV率(次の段階に進む割合)自体はそれほど高くありません。第1段階から第2段階への移行は1.6%程度、第4段階から第5段階への移行も40%弱程度です。それでも掛け算の結果として月3件の成約につながっているのは、母数となる第1段階の訪問者数が大きいためと考えられます。つまり、各段階のCV率を無理に引き上げようとするより、まず第1段階の母数を増やすこと、そして各段階の間の離脱率を少しずつ改善していくことの積み重ねが、成約数を伸ばす近道になると言えます。業種やサービス単価によってCV率の目安は変わりますが、「入り口を広く・段階を細かく」という設計思想自体は業種を問わず応用できると考えられます。

各段階の設計時間(一気にやらなくてOK)

「5段階すべてを一気に作らなければいけない」と身構える必要はありません。既存のホームページに、段階を1つずつ足していく形で十分と考えられます。目安となる作業時間は次のとおりです。

合計1〜2日で完成。

着手する順番に迷う場合は、まず第1段階と第2段階から始めることをおすすめします。既存のブログ記事に匿名診断へのリンクを足す、LINE公式アカウントを開設してブログの最後に登録導線を置く──この2つだけでも、いきなり「お問い合わせ」しかなかった状態と比べて、お客様が次の一歩を踏み出しやすくなると考えられます。第3段階以降は、反応を見ながら少しずつ整えていけば十分です。

最後に、導線設計を見直す際に確認しておきたいポイントを簡単なチェックリストにまとめました。

この6点を見直すだけでも、お客様が「これなら聞ける」と感じる入り口を増やせると考えられます。すべてを一度に整える必要はありません。まずは現状のCTAを一つ書き出し、その手前にどんな段階を足せそうか、という視点から見直してみてはいかがでしょうか。


著者プロフィール

小宮山 泉(株式会社テラデザイン代表)。八王子を拠点に、中小企業・個人事業主向けのWeb制作とAI活用支援に携わっている。現場のお客様の声を聞きながら、無理なく実行できる導線設計を一つずつ形にすることを大切にしている。