「担当のあの人がいないと、この見積もりの基準が分からない」「マニュアルはあるが、実際の判断はベテランの勘に頼っている」。こうした業務の属人化に悩む中小企業の経営者様は少なくありません。属人化は長年その人の経験によって支えられてきた強みでもありますが、同時に会社の成長や事業承継の場面で大きなリスクにもなり得ます。今回は、属人化していた業務をAIによって仕組み化する、という考え方についてお伝えします。
1.「あの人にしか分からない」という属人化の壁
中小企業では、特定の業務が特定の社員に集中し、その人がいなければ仕事が止まってしまうという状況がよく見られます。本人にとっては頼られている実感があり、会社にとっても即戦力であるため、属人化そのものが悪いこととして意識されにくい面もあります。
しかし、その担当者が休んだり退職したりした途端に業務が滞ってしまう、あるいは新しく入った社員になかなか引き継げない、といった問題が表面化しやすいのも事実ではないでしょうか。
2.なぜ属人化は中小企業で起きやすいのか
人数が限られている中小企業では、ひとつの業務をひとりが最初から最後まで担当することが多く、自然と経験やノウハウがその人の中に蓄積されていきます。マニュアル化する時間や人手を確保しにくいことも、属人化が解消されにくい理由のひとつと考えます。
また「マニュアルにできるほど単純な仕事ではない」という感覚も、属人化を後押ししてしまう要因ではないでしょうか。実際には、判断の背景にある基準を言葉にできていないだけ、というケースも多く見られます。
3.属人化していた業務をAIで仕組み化するという発想
ここで注目したいのが、AIを使って、担当者の判断基準を言語化し、仕組みとして残していくという取り組みです。ベテラン社員の頭の中にある判断基準をヒアリングし、AIに整理してもらいながらルールや目安の形に落とし込んでいきます。
すべてをAIに任せきりにするのではなく、人の経験をAIが引き出し、形として残すというイメージが近いのではないかと考えます。
4.よくあるケース:見積もりの基準が担当者の頭の中にしかなかった例
例えば、こうした事例が考えられます。ある製造業の会社では、見積書の金額を出せるのがベテラン社員一人だけで、その人が不在の日は見積もり自体が止まってしまうという状態でした。過去の見積書をAIに読み込ませ、金額の傾向や条件ごとの目安を整理したところ、判断のベースとなる基準が言葉として見えるようになったといいます。
すべての判断をAIに置き換えたわけではありませんが、叩き台をAIが作り、最終判断は人が行うという形にすることで、担当者以外でも見積もり作業に着手できるようになったと考えられます。
5.よくあるケース:問い合わせ対応がベテラン任せだった例
別の例として、こうしたケースも考えられます。ある工務店では、顧客からの問い合わせ対応がベテラン営業担当の経験と勘に頼っている状態でした。過去のやり取りやよくある質問をAIに整理してもらい、回答のパターンをまとめたところ、経験の浅い社員でも一次対応ができるようになったという声が聞かれます。
このように、属人化していた対応の「型」をAIと一緒に洗い出すことで、特定の人に依存しない体制に近づけていくことが期待できます。
6.AIによる仕組み化を進める3つのステップ
属人化の解消をAIで進める際は、以下のような順序で取り組むことをおすすめします。
- ベテラン担当者に、判断の基準や過去の事例をヒアリングする
- 過去の資料やメールなどをAIに読み込ませ、共通するパターンを整理する
- 整理した内容を簡単なルールやチェックリストの形にまとめ、他の社員でも使える状態にする
いきなり完璧な仕組みを目指すのではなく、まずは一部の業務から試してみることをおすすめします。
7.仕組み化によって得られるのは効率化だけではない
属人化していた業務を仕組み化することで得られるのは、単なる時間短縮だけではないと考えます。担当者の急な休みや退職があっても業務が止まりにくくなること、新人教育にかかる時間が短くなること、そして何よりベテラン社員の経験が会社の資産として残ることも大きな意味を持つのではないでしょうか。
属人化の解消は、担当者本人の負担を軽くすることにもつながります。「自分がいないと回らない」というプレッシャーから解放されることも、見過ごせないメリットです。
まとめ
属人化していた業務は、AIを使うことで少しずつ仕組みに置き換えていくことが期待できます。ベテランの経験をヒアリングし、過去の資料から傾向を整理し、簡単なルールにまとめる。この積み重ねが、特定の人に依存しない、持続可能な会社づくりにつながるのではないでしょうか。
