「若手を採用しても、数年で辞めてしまう」「せっかく育て始めた矢先に辞めてしまい、技術が引き継がれない」。製造業の経営者様からよく伺うお悩みです。原因として「きつい・汚い・危険」という労働環境の印象がよく挙げられますが、実際にお話を伺っていくと、それだけでは説明しきれない部分があると感じます。今回は、製造業の若手離れとAI活用が、実はどのようにつながっているのかを整理してみます。
設備投資や賃金アップだけでは解決しきれない課題に、AI活用という別の角度からアプローチできる可能性があるのではないか、というのが今回お伝えしたい内容です。
1.製造業の若手離れ、原因は労働環境だけではない
厚生労働省の統計等でも、製造業は他業種と比べて若年層の離職が課題として挙げられることが多い業種です。労働環境の厳しさが理由として語られることが多いのですが、実際に現場の声を伺うと、「成長している実感が持てない」「この会社で先が見えない」という声も少なくありません。
これは労働条件そのものというより、働き方や技能の身につき方に対する不安に近いものではないかと考えます。実際、待遇面をある程度改善しても離職が続くという相談を受けることもあり、根本の原因は別のところにあるのではないかと感じる場面が少なくありません。
2.なぜ若手離れとAI活用が関係あるのか
一見すると、製造現場のAI活用と若手の離職は関係のない話に思えるかもしれません。しかし、若手が離職する背景を分解していくと、「技能が教えてもらえない」「非効率な作業に時間を取られる」「会社の将来性が見えにくい」といった要因が浮かび上がり、そのいずれもAI活用によって一部は緩和できる可能性があると考えます。
技術の問題というより、日々の業務の中で積み重なる小さな負担が、若手の「この会社で続けていけるか」という判断に影響しているのではないかと考えます。以下、具体的に3つの関係を見ていきます。
3.関係①属人化した技能承継が若手の負担になっている
製造業の現場では、長年の経験を持つベテラン社員の勘や感覚に頼った作業が多く、マニュアル化されていない技能も少なくありません。若手にとっては、「何を聞けば分からないことが分からない」という状態が続きやすく、これが成長実感の乏しさにつながっているのではないかと考えます。
AIを使って作業手順や過去のトラブル対応をテキスト化・整理しておけば、ベテランの手が空いていない時でも若手が自分で調べられる環境を作ることができます。技能承継の負担をベテラン一人に集中させない仕組みとして、活用の余地があると考えます。
ベテラン社員に一からマニュアルを書いてもらうのは負担が大きいものですが、普段の会話や口頭での説明をもとにAIで文章化するだけでも、記録として残しやすくなります。「話したことを形にする」という使い方であれば、ベテラン社員の負担も比較的小さく始められると考えます。
4.関係②教育にかかる時間が定着率を下げている
新人教育に十分な時間を割けないことも、製造業の中小企業様でよく伺う課題です。教育担当者が本来の業務と兼務している場合、若手への指導が後回しになり、結果として「放っておかれている」という印象を与えてしまうことがあります。
マニュアル作成や研修資料の下書きにAIを活用すれば、教育担当者の準備時間を短縮できる可能性があります。浮いた時間を、実際に若手と向き合う時間に回すことができれば、定着率にも良い影響が期待できるのではないでしょうか。資料作成そのものに追われて、若手と話す時間が取れないという本末転倒な状態を避けることにもつながると考えます。
5.関係③会社の情報発信力が採用の入り口に影響している
そもそも応募の段階で、会社の魅力が十分に伝わっていないという課題もあります。多くの中小製造業様では、採用ページや求人票の更新に十分な人手や時間を割けていないのが実情ではないでしょうか。
AIを使えば、現場の写真や実績をもとにした求人原稿の下書き、SNS投稿文の作成などを、専任の広報担当者がいなくても一定水準で進められるようになります。発信の量と頻度を増やせること自体が、採用の間口を広げる材料になり得ると考えます。
6.AI活用が若手離れの緩和にどうつながるか
ここまでの3つの関係を踏まえると、AI活用は「若手が成長を実感しやすい環境」「教育に時間をかけられる環境」「会社の魅力が伝わる環境」という、離職の背景にある3つの課題にそれぞれ働きかける可能性があると考えます。
もちろんAIを導入しただけですべてが解決するわけではありませんが、これまで手が回らなかった部分に手を回せるようになる、という効果は十分に期待できるのではないでしょうか。特に人手に余裕のない中小製造業様にとっては、限られた時間の使い方を見直すきっかけとしても意味があると考えます。すぐに大きな成果を求めるのではなく、少しずつ手応えを積み重ねていく姿勢が大切ではないでしょうか。
7.製造業の現場で始めやすいAI活用の例
実際に取り組みやすい例として、以下のようなものが挙げられます。
- 作業手順書・チェックリストの下書き作成
- 過去のトラブル事例・対応履歴の整理と検索しやすい形へのまとめ
- 新人研修資料・OJTマニュアルの叩き台作成
- 求人票・採用ページ・SNS投稿文の下書き作成
- 日報・報告書の要約や体裁の整形
いずれも専門的なシステム開発を必要とせず、既存の生成AIツールを使って今日から着手できるものばかりです。まずは1つの作業だけを選び、経営者様ご自身か、教育を担当している社員様が試してみるところから始めることをおすすめします。
まとめ
製造業の若手離れは、労働環境の厳しさだけでなく、技能承継の属人化、教育時間の不足、情報発信力の弱さといった要因が重なって生じているのではないかと考えます。これらはいずれもAI活用によって、部分的にでも緩和できる可能性があります。技能をテキスト化する、教育資料の準備を効率化する、採用情報を発信する。できるところから一つずつ取り組んでみてはいかがでしょうか。
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